人は自分の行動を自分自身で常に決めているでしょうか。
集団の中にいる時には、人はまわりと同調した行動をとることが多いと言われています。
そのような行動は、災害時にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
この記事では「多数派同調バイアス」という言葉から、事例を交えながら解説していきます。
多数派同調バイアスとは何か
「多数派同調バイアス」は心理学の用語です。
周りに人がいると、個人の考えや判断とは異なっていても、多数派の考え方に合わせようとする心理的な傾向のことを「多数派同調バイアス」と言います。
集団の中で自分1人だけが意見が異なる時のことを思い浮かべてください。
多くの人は不安な気持ちになるのではないでしょうか。
その時に感じた不安な気持ちを解消するために、多数派同調バイアスが働いて多数派と同じ意見にすることで、集団の一員としての安心感を得ることができます。
多数派同調バイアスの効果・危険性
多数派同調バイアスの良い効果としては、集団における意思決定を円滑に行えるということがあります。
集団の中でそれぞれが全く異なる主張を言い合っているのでは、組織として何かを決めることはできません。
多数派同調バイアスが働くことで、集団内の意見がスムーズに1つに収束するという効果があるでしょう。
しかし、バイアスが悪い方向に働くことも考えられます。
たとえば、いじめが起きるメカニズムとしても、多数派同調バイアスは考えられています。
特定の子どもに危害を加えたいと思っていなくても、周囲の子どもたちが誰かをからかったりしていじめのターゲットにしていると、それに同調するようにいじめに加わる子どもが増えてしまう、という状況はよく起こることです。
災害時における多数派同調バイアスの影響
多数派同調バイアスは災害時においても、人の行動に大きな影響を及ぼす可能性があり、それは時に生死を分けることもあります。
たとえば、職場や学校などで火災報知器が鳴ったことを想像してみてください。
「周りの誰もが動かなければ、それに合わせて自分も動かなくて大丈夫だろう」
と判断してしまった経験はあるのではないでしょうか。
誤作動や訓練で鳴らしていた場合なら問題ないのですが、もし本当に火災が発生していたことに気づかずにいたらどうなるでしょう。
全員が逃げ遅れてしまい、大惨事と言うことになりかねません。
個人で判断していれば違った行動をとったかもしれないのに、集団でいる場合には周囲が動かなければ自分も動かない方が安心してしまうのが多数派同調バイアスによる影響です。
そしてこの例で、多くの人は火災報知器が鳴っても動かない行動をとってしまう背景には、多数派同調バイアスとあわせて「正常化バイアス」があります。
「正常化バイアス」とは、予期できない事態に直面した時に、それを「ありえないだろう」と日常的な文脈に落とし込んで正常な範囲のことと考える心理的な特性のことです。
日常的には大きな火災が起きることは少ないので、正常化バイアスが働いて、直ちに逃げるという行動をとりにくくなってしまいます。
正常化バイアスにより直ちに行動を起こさない人が周りに多ければ「逃げた方がいいのではないか」と感じた人も自分だけが逃げるのもはばかられます。
このように、周りと行動を合わせてしまうのが多数派同調バイアスの影響です。
災害時には多数派同調バイアス、そして正常化バイアスの2つの組み合わせによって逃げ遅れてしまうことがあり得るのです。
多数派同調バイアスの事例
2003年に韓国の大邱(テグ)で起きた地下鉄放火事件では、約200人の命が奪われてしまいました。
これほど多くの人が死亡するに至った要因の1つに多数派同調バイアスが挙げられます。
事件で公表された写真の中に、出火後の地下鉄車内の様子が写されたものがありますが、煙が充満しながらも多くの人が座ったままです。
これは予想もしない非常事態に陥ると、どのような行動をとって良いかわからずお互いがどう動くのかけん制し合って、結果として誰も動かないという行動をとってしまったと考えられます。
このように、緊急時にとっさの判断ができない時に多数派同調バイアスが働いてしまうと、多くの犠牲者を生んでしまうことにもなるのです。
まとめ
多数派同調バイアスは、日常の文脈では組織の円滑な運営に役立つものですが、一方でいじめなどのネガティブな行動も増幅させてしまうものと言えます。
そして災害時など、冷静な判断ができない時には多数派同調バイアスに要注意です。
人間にはこのような心理的な特性があることを理解し、避難訓練の際などにも「誰しも多数派同調バイアスがある」ということを積極的に周知することが重要になるのではないでしょうか。
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