[google-translator]

「正常化バイアス」とは?地震などの災害時で生死を分ける心理的特性

 

これまで経験したことのない規模の台風や地震に遭遇した時、人々はどのように行動してきたでしょうか。

 

誰もが災害の規模をとっさに判断できるのであれば、災害で命を落とす人は大幅に減ることでしょう。

 

しかし実際は、助かった人からも「まさかこんなに酷いことになるとは思わなかった」という声を聞くことがよくあります。

 

なぜ人はこのように災害の甚大さを見誤ってしまうのでしょうか。この現象を説明する概念の1つに「正常化バイアス」があります。

 

本記事では「正常化バイアス」が災害時にもたらす危険性や実際にそれが働いた事例について紹介していきます。

 

 

正常化バイアスとは何か

 

「正常化バイアス」は心理学用語で、予期できない事態に直面した時にそれを「ありえないだろう」と日常的な文脈に落とし込んで、正常な範囲のことと考える心理的な特性のことを言います。

 

わかりやすく言うと、正常化バイアスの「バイアス」とは「思い込み」という意味です。

 

正常化、つまり「正常で異常ではない」と「思い込むこと」を正常化バイアスと言います。

 

正常化バイアスは「正常化の偏見」や「恒常性バイアス」などとも言われ、医療や災害の分野で主に使われる用語です。

 

 

正常化バイアスの効果

 

正常化バイアスは多くの場合には、心の平静状態を保つことに寄与していると考えられます。

 

人は予期しない事態に遭遇すれば、極度に緊張状態に陥ります。

 

その緊張状態を低くしようとして、その異常さを低く見積もることで緊張状態を解消しようとするのです。

 

たとえば少し考えてみると、巨大地震はいつ起こってもおかしくありません。

 

しかし、日常生活を送るためには、常に巨大地震に備えて緊張している訳にはいきません。

 

正常化バイアスはそんな異常な心理状態に陥らないために、心を平静に保つ効果をもたらしています。

 

 

正常化バイアスの危険性・注意すべきこと

 

正常化バイアスが働いている例を考えてみましょう。

 

自分の職場や学校で火災報知器が鳴った場合でも、今までにそこで火災を経験したことがなければ「誤作動に違いない」と考えて逃げようと思いもしなかった、という経験はないでしょうか。

 

これは正常化バイアスが働いて、日常のほとんどの場合には予期しない事態が生じないために「そんなに危険な事態は起こっていないだろう」と考えてしまう例と言えるでしょう。

 

しかし、本当に火災が起きているとしたらどうでしょうか。

 

誤作動や訓練で火災報知器が鳴っていると判断して、避難するための行動を起こさず、火の手が迫ってきて初めて火災に気づいていては逃げ遅れてしまいます。

 

結果的に避難行動が遅れ、命を落とすような重大な事態になることもあります。

 

このように正常化バイアスが働いていたことにより、安全を第一に考えた行動がとれない事態が生じてきます。

 

大きな災害時においては、この判断の誤りが生死を分けることになってしまうのです。

 

 

またバイアスと言うものは、似たような経験が積み重なれば、その効果は強まっていくと考えられます。

 

日本国内に住んでいれば、それほど大きくない台風や地震を経験することがあります。

 

そのたびに「やはり大したことはなかった」という意味付けをするごとに正常化バイアスが強く働くようになってしまいます。

 

実際に予期しない災害にあった場合、正常化バイアスだけが判断を誤らせる要因ではないでしょう。

 

ただ、大小さまざまな災害を経験していると、

 

「これまでは一度も被害に遭わなかったから大丈夫」

「今まで大丈夫だった。だから、多分今回も大丈夫」

 

などという思い込みが、災害時に正常化バイアスを強める可能性があることを頭に置いておくべきでしょう。

 

 

正常化バイアスの事例

 

正常化バイアスが災害時に影響を及ぼした事例として、2011年の東日本大震災があります。

 

津波による避難勧告が出ていながら、避難のために動くことをしなかった人たちがいました。

 

具体的には、宮城県石巻市立大川小学校において、全校児童を校庭に集め、教職員はどこに避難すべきなのか議論をしていました。

 

意見がなかなかまとまらず、場所が決定して避難を始めたところで津波に遭い、多くの死者が出てしまいました。

 

この時にも「被害に遭うことはないのではないか」という思考のバイアスがかかって、対応が遅れたのではないかと言われています。

 

想定外と言われた東日本大震災であったからこそ、正常化バイアスがかかりやすく、対応の遅れた事例がみられたと言えるでしょう。

 

 

まとめ

 

正常化バイアスは人の心理的なメカニズムであるがゆえに、意識して止めることは難しいものです。

 

また、緊急の対応を求められる災害時であればなおさら困難です。

 

災害時に判断を誤らないためには、正常化バイアスの働きを知っておくとともに

 

避難訓練を行うことや予想外の被害が起きるような災害が生じ得るという認識を持つことなど、普段から災害に対する心構えを持つことも大切ではないでしょうか。

 

 

関連記事

心理学

  人は自分の行動を自分自身で常に決めているでしょうか。   集団の中にいる時には、人はまわりと同調した行動をとることが多いと言われています。   そのような行動は[…]

心理学

  災害は突然起きるものであり、普段通りに落ち着いた行動のとれる人は少ないものです。   そして非常事態には、人間の持っている「認知バイアス」が働いてしまうために、時に生死を分けることに[…]

 

error: Content is protected !!