液体ミルクは2011年に発生した東日本大震災をきっかけに、2019年3月から日本国内で販売されるようになりました。
液体ミルクは常温で調乳せずにそのまま飲ませることができるので、地震等の災害で断水したりお湯が手に入らない時も赤ちゃんにミルクを飲ませることができます。
でも、常温で飲ませられるとはいえ、冬の寒い時期だとお腹が冷えないようにできれば温めて飲ませてあげたいですよね。
そこで、この記事では、液体ミルクの温める時の注意点と自宅・外出先での温め方についてご紹介します。
乳児用液体ミルクの種類と容器
乳児用液体ミルク(以後、液体ミルク)は
江崎グリコの「アイクレオ赤ちゃんミルク」(以後、アイクレオ)
明治の「明治ほほえみらくらくミルク」(以後、ほほえみ)
雪印ビーンスタークの「ビーンスターク液体ミルクすこやかM1(エム1)」(以後、すこやか)
の3種類が販売されています。(2020年4月現在)
「アイクレオ」の容器は紙パック、「ほほえみ・すこやか」の容器はスチール缶です。
液体ミルクの使い方についてはこちら
「液体ミルクって便利そうだけど、どうやって使うんだろう...」 「赤ちゃんが生まれたから、防災グッズを見直さなくちゃ...」 「赤ちゃんを家に置いて外出したいけれど、ミルクどうしよ[…]
なお、液体ミルクを製造している3社は、容器に入れたまま直接温めず、哺乳瓶に移してから湯せんすることを推奨しています。
そこで、まず自宅・外出先で温める方法を説明する前に「なぜ容器に入れたまま直接温めることを推奨していないのか」について考えてみました。
液体ミルクを容器のまま温めてはいけない理由
液体ミルクを容器のまま直接温めてはいけない理由について紙パックとスチール缶について解説します。
一般的な紙パックについて
一般的な紙パックの素材は「紙」と「ポリエチレン」で作られています。
アイクレオの紙パックには、アルミ箔も使われていますね。アルミ箔を使うことで光や酸素の侵入防止や中身の成分を保護する役割があるようです。
ポリエチレンにはいろんな種類のポリエチレンがあります。そのうち、牛乳パックなどの紙パック容器の内張りフィルムに使われているポリエチレンは低密度ポリエチレンです。
低密度ポリエチレンは耐水性がありますが、耐熱温度は70~90℃であるため、火や熱に弱いです。
単一のポリエチレンはを完全燃焼させると、理論上、発生するのは二酸化炭素と水、熱が発生します。ポリエチレンの燃焼式では理論上、有害物質は発生しません。
ポリエチレンの燃焼式
C2H4 + 3O2 → 2CO2 + 2H2O(+ 熱エネルギー)
また、アイクレオは紙パックなので、スチール缶より軽くて持ち歩きやすいというメリットがあります。しかし、温めに関しては紙パックならではのデメリットがあるようです。
・電子レンジでは温めない(加熱が不均衡になり、一部に熱い部分ができ、乳児にやけどを負わす可能性があるため)
・紙パックのまま湯煎しない(紙容器断面から水分が浸透して容器が柔らかくなったり、中身衛生性を損なう可能性があるため)
電子レンジでは温めない
アイクレオの紙パックの表面は、水分を遮断するためにポリエチレンのコーティングがしてあります。しかし、湿気などで多少の水分がついている可能性があります。
電子レンジは食べ物や飲み物などに含まれている水分を振動させて加熱する機械です。もし、紙パックに水分が含まれていると発火して燃える危険性があります。
また、容器が膨張し破裂する恐れもあるので、紙パックのまま電子レンジでは温めないでください。
紙パックのまま湯せんしない
紙パックのまま湯せんすると、容器が破損して液体ミルクに湯せんに使った水などが混入する可能性があります。
そのため、液体ミルクが汚染されてしまうので紙パックのまま湯せんしないでください。
一般的なスチール缶について
液体ミルク「ほほえみ」と「すこやか」の容器はスチール缶です。
スチール缶と聞くと「スチール(鉄と炭素の合金)」だけでできていると思いませんか?
スチール缶は、スチールの表面にクロムめっきが表面処理されている「ティンフリースチール(TFS)」というものが使われています*1。
ティンフリースチールは、耐食性(さびにくい)と耐熱性(熱に強い)があります。また、スチール缶の内側と外側の表面にはPET(ポリエチレンテフタレート)フィルムが施されています*。ポリエチレンテフタレートはフィルムで使用する場合は、200度近くまで耐熱温度を持つようです*。
以上のことから、スチール缶を沸騰したお湯で加熱してもスチール缶の内側のPETフィルムは理論上溶けません。
上図:TFS(ティーンフリースチール)の断面、下図:ラミネート缶(スール缶)の胴材料の断面構造
STEEL CAN AGE |スチール缶リサイクル協会より引用
しかし、スチール缶の取り扱いには注意すべき点があります。
1つ目は、スチール缶の錆び(さび)です。
スチール缶には両面にPETフィルムが施されていますが、落としたりすると傷がつく場合があります。
スチール缶に傷がついてPETフィルムがはがれた場合、スチール缶の成分の大部分が鉄でできているため、鉄に水分が付着すると錆びてしまうことがあります。
そのため、傷がついた缶の液体ミルクを湯せんした場合は、湯せんしたお湯の中にさびなどの不純物が溶け込みます。
もし、缶を開けた時などに湯せん用の水が入ってしまうと液体ミルクを汚染してしまう可能性があるので注意が必要です。
また、スチール缶には「熱伝導性が高い(熱が伝わりやすい)」つまり「温かくなりやすく冷めやすい」性質があります。そのため、加熱しすぎるとスチール缶が熱くなりやけどの恐れがあります。
* 参照HP
ポリエチレンテレフタレート(PET)はプラスチック素材の中でも極めて汎用性が高い素材です。ペットボトルや衣類のフリースの…
液体ミルクの温め方
前述では、紙パックとスチール缶の特徴についてご紹介しました。
容器の特徴を踏まえて、液体ミルクを湯せんする方法と、湯せん以外で温める方法について自宅と外出先にわけてご紹介します。
自宅で液体ミルクを温める方法
湯せんで温める
液体ミルクを製造している3社は、容器に入れたまま直接温めず、哺乳瓶に移してから湯せんすることを推奨しています。
(アイクレオについては、上述の「アイクレオの紙パックについて」をご覧ください)
なお、株式会社明治に湯せんで温める時の温度について問い合わせたところ、「湯せんする場合は50℃くらいのお湯が望ましい」という回答を得ました。
70℃以上のお湯で湯せんすると液状乳は液色(うすい茶色)が濃くなる(褐変(かっぺん))現象が起こり、ビタミン等が劣化してしまうそうです。
また、液体ミルクを温めて長時間置いたり繰り返し温め直すと液体ミルクの成分が変化してしまうそうです。
したがって、液体ミルクを温める場合は50℃くらいのお湯で湯せんして温め、温めたらすぐ飲ませてください。
・液体ミルクを清潔な哺乳瓶に注ぐ
・50℃くらいのお湯をボウルなどの容器に哺乳瓶を入れ温める。
(哺乳瓶をゆすりながら湯せんすると、液温が均一になりやすくなる)
ミルクが温かくなったら、液温が人肌くらいなるのを確認して赤ちゃんに飲ませてください。
なお、缶入りの液体ミルク「ほほえみ」には、缶に乳首を取り付けられる専用アタッチメントがあります。専用アタッチメントを使用される場合は哺乳瓶に移す必要がないので、缶のまま湯せんしてください。
「明治ほほえみ らくらくミルク」の専用アタッチメントの使い方はこちら
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哺乳瓶ウォーマーで温める
哺乳瓶ウォーマーは、粉ミルクの調乳に使うお湯や搾乳した母乳を適温に温めたり保温することができる機械です。哺乳便ウォーマーを使うと湯せんをする必要がないので手間が省けます。
哺乳瓶ウォーマーを使う場合は40℃にセットし、温まったらすぐ飲ませてください。
前述のとおり、液体ミルクを温めて長時間置いたり繰り返し温め直すと液体ミルクの成分が変化してしまうので、使用には注意が必要です。
液体ミルクを室温があたたかい場所に置く
液体ミルクをリビングなどあたたかい場所に置いておくと、室温があたたかい分、液体ミルクの液温が上がります。
普段、液体ミルクを押入れやクローゼットなどに置いている場合はその日の飲む分だけでも、温かい場所に置いておくとよいかと思います。
ただし、直射日光が当たる場所は避けてください。
外出先で液体ミルクを温める方法
授乳室で湯せんする
授乳室があれば調乳用のお湯があるのでこのお湯を使って湯せんしましょう。
ただし、湯せんするお湯の温度を50℃以下になるように水を足してから湯せんするようにしてください。
持参したお湯で湯せんする
授乳室などでお湯が手に入らない場合はお湯を持参しましょう。水筒またはスープジャーにお湯を入れて持ち歩くと湯せんすることができます。
「ほほえみ」は缶の底が内径が大きいのでスープジャーがお勧めです。「すこやか」は缶が細長く内径が小さいので水筒でも大丈夫でしょう。
カイロで温める
カイロを哺乳瓶または缶に直接当てて温めるのもおすすめです。
しかし、カイロを当てて温め続けるのは疲れるしカイロの熱が放熱しやすいです。そのため、哺乳瓶ケースや水筒ケースにカイロで包んだ哺乳瓶または缶を入れるとより温まりやすくなります。
体温で温める
「授乳室もない」「お湯も持っていない」「カイロもない」という場合は体温で温めましょう。
哺乳瓶や缶を手で温めたり、大人の服のポケットに入れておけば、常温で飲ませるよりは温かくなります。
液温を知るための便利グッズ
「マジックベイビー」という温度で色が変わる哺乳瓶があります。
ミルクの液温が適温かを色で判断できるため、人肌なったかどうかをさわって確認する必要がありません。
また、「ミルクのみごろチェッカー」というシートがあります。
このシートを液体ミルク入りの哺乳瓶や缶入りの液体ミルクに貼ると飲み頃の温度(40度)を知ることができます。
USB哺乳瓶ウォーマー」という哺乳瓶ケースもあります。
この哺乳瓶ケースにはUSBヒーター内臓で、USBで給電すると液体ミルクを入れた哺乳瓶が温めることができます。
まとめ
・紙パックのまま湯せんしない
・紙パックのまま電子レンジで温めない
・缶を開ける前に破損がないか確認する
・缶が熱くなりやすいのでやけどに注意する
・50℃くらいのお湯で湯せんする
・適温になったらすぐ飲ませる
・液体ミルクを温めて長時間置いたり、繰り返し温め直すことはしない
・湯せんする
・哺乳瓶ウォーマーを使う
・室温があたたかい場所に置く(ただし、直射日光はさける)
・授乳室などのお湯を使って湯せんする
・持参したお湯を使って湯せんする
・カイロで温める
・体温で温める
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